Last modified: Wed May 19 2004

どこが問題なのか

文責: 金子勇氏を支援する会

0. はじめに

私たちは、ただ金子氏が優れた人柄であるから支援するわけではなく、今回の逮捕には幾つかの問題があると考えています。以下に私たちなりの考えを述べます。この見解は弁護団とは独立した見解であり、あくまで支援団体としての見解を示すものであることにご注意ください。また支援団体は法律の専門家ではなく、考えの正しさを保証するものでもありません。

1. 異例の逮捕

まずはじめにお伝えしたいのは、今回の逮捕はとても異例な事件であるということです。P2P匿名通信ソフトウェアの作者が、著作権法違反幇助の容疑で逮捕されたことは、多数の人々に衝撃を与えました。ソフトウェアの作者が、そのソフトウェアを悪用して行われた犯罪に対して幇助の罪に問われるのは前代未聞のことといえるでしょう。

刑法の原則に罪刑法定主義というものがあり、犯罪とするものは法律できちんと定めなければならないのです。数年前、著作権法には「コピープロテクトを回避する装置の販売を禁止する」むねの一文が追加され、それまで自由に販売されていたコピープロテクト回避装置の販売を犯罪として禁じました。

そのように新たに何かを禁じるためには法律を改正・新設しなくてはなりません。けれど、今回は立法の手続きを経ずに突然の逮捕を行いました。

この逮捕は強引であり、幇助の範囲をとても広く解釈しているとおもいます。これでは次章で説明するように、多くの人をいつでも逮捕できるというのが私たちの心配するところです。

2. だれでも逮捕できてしまう

犯罪の幇助という事実は、とても慎重に認定されなければいけません。特定の犯罪を明白な意図をもって具体的に相当量助けた事実があるべきです。さもなければ、とても広い範囲の行為が犯罪に問われることになります。

金子氏がWinnyを開発したのは、最先端のP2P匿名通信技術の改良や実証実験のためであると私たちは考えています。WinnyがベースとしたFreenetは独裁政権下での自由な通信などの目的で研究開発され、Freenetの論文は世界で最も多く引用された論文の一つとなりました。

そうしたソフトウェアが著作権法違反に悪用されたことで開発者が逮捕されるのです。であれば、CD-Rのような機器はどうでしょうか。CD-Rは売れ筋製品として多くの売り上げをあげていますが、その用途は合法なものに限りません。音楽CDやソフトウェアのCDを、違法にコピーするのに広く使われています。

Windows Media Playerなども違法とされる懸念があります。他人のCDを取り込むような違法コピーを簡単に行うことができます。また音楽データをネットワークを通じてやりとりするには、こうしたソフトウェアでCDから取り込む必要があります。

今回のような強引な逮捕をするならば、こうした他のソフトウェアやハードウェアの開発者多数もまた罪に問えることになってしまいます。こうした強引さは技術者や一般の人々におおきな不安と恐怖を与えています。

3. ソフトウェア技術者の不安と恐怖

現在は多くのソフトウェア技術者が不安を抱えながら研究開発を進めています。先日には、セキュリティ研究者が調査研究をしたさいの手順が問題とされ、逮捕される事件がありました。それは業界に大きな衝撃を与え、不安に陥れました。

そこに続いての今回の強引な逮捕で、もはやソフトウェア技術者にとって逮捕されることは日常的な危機となりました。私の知人のP2P研究者らも、研究が成功してユーザが増えれば逮捕されてしまうかもしれない、などと話しています。

技術者らが通常行っている活動が、突然に犯罪として逮捕されてしまう、そのような事態はソフトウェアの研究開発を著しく萎縮させています。実際に、逮捕の恐れなどを理由に公開されないセキュリティ調査ソフトウェアなどの実例もあります。また銀行のウェブサイトにセキュリティ上の重大な欠陥を見つけながら、どうすることもできないなどという事例も耳にします。

法的規制が過剰に強くなったり、間違った規制があることも問題です。しかし法律がないのに突然に逮捕されてしまうことはもっと問題です。なにをやったら逮捕されるのかが警察の自由となっている現在では、きわめて幅広い自己規制を行わねばなりません。

金子氏は東大の助手を勤め、経済産業省の国家プロジェクト「未踏ソフトウェア創造事業」でも大きな成果をおさめました。こうした人材を逮捕し、ソフトウェアの研究開発を萎縮させることは、日本の国益にかなうことでしょうか?

P2P技術は総務省のIT政策大綱でも研究開発の課題として推進がうたわれています。重要分野であるP2P技術の研究開発は、今回の事件で大きな後退を余儀なくされました。

警察は独断によって不当な逮捕を行い、日本の国策である技術開発の促進を台無しにしてしまい、国益を大きく損ねています。

4. まとめ

立法を無視した突然の逮捕はきわめて不当であり、社会に大きな損害を与えるものと考えます。私たちは、警察が金子氏をただちに釈放することを求めます。

金子氏の逮捕は話題性を求めた警察のスタンドプレーであり、法治国家の正しい原則に基づいていません。最初から仕切りなおして、幅広い議論と立法などの正しい手続きを通じて、社会をよりよくされることを望みます。

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